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広島地方裁判所 昭和42年(ワ)584号 判決 1969年12月23日

原告

岡田清

ほか五名

被告

成和運輸有限会社

ほか一名

主文

一、被告島根いすず自動車株式会社(以下「被告島根いすず」という)は、原告岡田清に対し、金一、一六六、一六七円、原告桃井次雄に対し、金五、〇一七、二二一円および右各金員に対する昭和四一年九月一八日から支払いずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二、被告島根いすずに対する原告岡田清、同桃井次雄のその余の請求、原告岡田ヨシ子、同桃井洋子、同桃井富守、同桃井智将らの請求ならびに被告成和運輸有限会社(以下「被告成和運輸」という)に対する原告らの請求は、いずれもこれを棄却する。

三、訴訟費用の負担につき、原告らと被告成和運輸の間においては、全部原告らの負担とし、原告らと被告島根いすずの間においては、原告岡田ヨシ子、同桃井洋子、同桃井富守および同桃井智将について生じた分を同原告らの負担とし、その余の原告らと被告島根いすずの間に生じた分はこれを一〇分し、その九を同被告、その一を右原告らの負担とする。

四、この判決は、主文第一項に限り、仮りに執行することができる。但し、被告島根いすずにおいて、原告岡田清に対し金五〇〇、〇〇〇円、原告桃井次雄に対し金二、五〇〇、〇〇〇円の担保を供して仮執行を免れることができる。

事実

第一、当事者の求めた裁判

原告ら訴訟代理人は、「被告らは、各自原告岡田清に対し金二、二〇五、三五八円、同岡田ヨシ子に対し金三〇〇、〇〇〇円、同桃井次雄に対し、金八、三九七、八七五円、同桃井洋子に対し金一、〇〇〇、〇〇〇円、同桃井富守・同桃井智将に対し各金三〇〇、〇〇〇円およびそれぞれにつき、昭和四一年九月一八日から支払いずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え、訴訟費用は、被告らの連帯負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求め、

被告ら訴訟代理人は「原告らの請求はいずれも棄却する。訴訟費用は、原告らの負担とする。」との判決を求めた。

第二、主張

(請求の原因)

一、事故の発生

訴外大屋克美は、昭和四一年九月一七日午後四時頃、島根県大原郡加茂町南加茂の国道五四号線路上を大型貨物自動車(広一い五五―一〇)(以下「被告車両」という)を運転して進行中、同所において、松江方面に向けて進行してきた普通貨物自動車(広一せ一五―六三)(以下「原告車両」という)と正面衝突し、原告車両を大破し且つバッテリーにショートを発生させて同車を焼燬せしめ、また同車を運転していた原告桃井次雄に対し、両下腿骨開放性骨折・左足挫減・頭部外傷・頭蓋骨々折・外傷性頸椎症等、同乗していた原告岡田清に対し、頭部外傷・頭皮裂創等の各傷害を与えた。

二、訴外大屋克美の過失

(一) 右訴外人は、本件当時一九歳の未成年者であり、且つ、大型自動車の運転免許を取得したばかりで、道路交通法第八五条第五項・同法施行令第三二条の二により大型自動車の運転を禁止されている者であるにもかかわらず被告車両を運転した。

(二) 本件事故現場は、右訴外人の進路方向からみて、左にカーブした見通しの悪い場所であり、加えて、当日は雨天のためスリップしやすい道路状況であつたので、被告車両の運転者としては、減速徐行し、衝突事故を未然に防止すべき注意義務があつた。右訴外人は、これを怠り、時速四五キロメートルの速度で漫然進行した過失があり、しかも前方道路左端に駐車していた訴外日本通運株式会社保有の貨物自動車を追越そうとしてセンターラインを越えて、道路右側を進行した過失がある。

三、被告成和運輸の責任

右被告は、被告車両の保有者として、同車両の登録名義を有する者であり、同車の本件運行は、被告島根いすずより買い受ける交渉中、現品を見るために同車両を松江市から岩国市へ回送するものであつたことから、運行利益を有するものであり、自賠法第三条により運行供用者として賠償責任を負う。

なお物的損害については、民法第七一五条により責任を負う。

四、被告島根いすずの責任

右被告は、本件事故当時、被告車両の所有者であり、同車両を被告成和運輸に譲渡するに際し、同被告に現品を見せるべく、松江市の本社から岩国市の営業所に回送することを、訴外島根陸送有限会社(以下「訴外島根陸送」という)に委託したものであるが、右の委託については、被告島根いすずにおいて、陸送の日時・場所・方法等を指定し、陸送担当の運転者の選任・監督権を有している。ことに本件の場合、自動車を一個の荷物として、それを運転して運ぶものであるから、訴外島根陸送としては、単に運転者を供給しているにすぎず、被告島根いすずが、自家用車の運行につき、運転者を一時雇いいれた実質を有するものである。従つて、同被告は自賠法第三条および民法第七一五条により賠償責任を負う。

五、損害の発生

(一) 原告岡田清の分 合計金二、五二三、一一九円

1 物的損害

(イ) 右原告は、原告車両の所有者であるが、同車両の焼失により、次の損害を受けた。

車両 金五六四、一八〇円

搭載していたジャッキ 金六、〇〇〇円

ロープ 金五、〇〇〇円

ヒッパナー 金三、五〇〇円

オイル四リットル缶 金一、二〇〇円

ヒーター 金一五、〇〇〇円

右合計金五九四、八八〇円から、原告車両をスクラップとして訴外安達金太郎に売却した代金一二、〇〇〇円を控除した残額金五八二、八八〇円

(ロ) 本件事故当時右原告の着用していた衣類等金五、九〇〇円

皮靴 金三、五〇〇円

シヤツ 金一、三〇〇円

ズボン 金一、一〇〇円

2 人的損害

(イ) 治療費ならびに諸経費 金二三四、八三九円

内訳

治療費 金一八〇、八三九円

島根県大原郡大東町飯田九六の一「雲南共存病院」にて、事故当日から同年一一月二四日まで入院治療を受けた費用

附添費 金二二、〇〇〇円

右原告の母ヨシ子の附添費、一日金一、一〇〇円として二二日分

交通費 金二〇、〇〇〇円

旅館宿泊費 金一二、〇〇〇円

(ロ) 逸失利益 金六九九、五〇〇円

右原告は、事故当時、鳥取県から広島市へ二〇世紀梨を運送する季節的職業に従事しており、一日平均金八、五〇〇円相当の純益をあげていたところ、本件事故のため、同年一〇月一〇日までの計二三日間、右の仕事ができなかつた。よつて金一九五、五〇〇円の得べかりし利益を失つた。

また、事故当時「カキ」の養殖に使用する帆立貝の殻を周旋する仕事をしており、次の契約が成立しており、それぞれにつき純利益が見込まれていたが、本件事故のため、すべて契約を解除され、合計金五〇四、〇〇〇円の得べかりし利益を失つた。

取引先 数量 単位当り純益 純益

陰山商店 二、〇〇〇束 金一〇〇円 金二〇〇、〇〇〇円

能業野村海産 八〇〇束

地御前川崎商店 四〇〇束 金一九〇円 金三〇四、〇〇〇円

地御前材木商店 四〇〇束

(ハ) 慰藉料 金一、〇〇〇、〇〇〇円

右原告は、前記傷害治療のため、六八日間の入院加療を要し、そのため、左顔面に額から左耳にかけて約七センチの創痕が残つている。右の傷害および創痕によつて受けた原告清の精神上肉体上の苦痛を慰藉するには金一、〇〇〇、〇〇〇円の支払いを受けるのが相当である。

(二) 原告岡田ヨシ子の分

慰藉料 金三〇〇、〇〇〇円

右原告は、原告清の母親であるが、扶養を受けるべき長男清の本件事故により多大の精神上の苦痛を受けた。これを慰藉するには、金三〇〇、〇〇〇円をもつて相当とする。

(三) 原告桃井次雄の分 合計金一〇、三九七、八七五円

1 物的損害

右原告が本件事故当時着用していた衣類等 金二九、八〇〇円

皮靴 金三、五〇〇円

シヤツ 金一、三〇〇円

ズボン 金三、〇〇〇円

カフスボタン 金三、〇〇〇円

指輪 金七、〇〇〇円

腕時計 金一二、〇〇〇円

2 人的損害

(イ) 治療費ならびに諸経費 金一、一三五、二九七円

内訳

治療費 金一、〇二六、二九七円

前記「雲南共存病院」にて治療を受けた費用 金九六一、〇九七円

種村病院での治療費 金六五、二〇〇円

附添費 金九九、〇〇〇円

右原告の妻洋子の附添費

交通費 金一〇、〇〇〇円

(ロ) 逸失利益 金六、二三二、七七八円

右原告は、本件傷害により、左足を膝下から切断することを余儀なくされ、なお、左眼は、完全に失明するに至つた。右の後遺症により右原告はその将来にわたり、完全に労働能力を喪失したものである。

一方、右原告は、本件事故当時、株式会社波平建設に自動車運転者として勤務し、年収金三三一、四二五円の給料を得ていた。

また、事故当時三一歳であつたから、六三歳まで稼働できるものとして、その稼働可能年数は三二年である。従つて、ホフマン方式により、その間の利息を控除して計算すると、右の労働能力喪失により右原告の失つた得べかりし利益は、金六、二三二、七七八円となる。

(ハ) 慰藉料 金三、〇〇〇、〇〇〇円

右原告は、本件事故による傷害のため、長期にわたる入院加療を要したうえ、前記後遺症を残し、その悲惨な将来を考えるとき、精神上肉体上の苦痛は甚大というべきである。これを慰藉するには金三、〇〇〇、〇〇〇円が相当である。

(四) 原告桃井洋子の分

慰藉料 金一、〇〇〇、〇〇〇円

右原告は、原告次雄の妻であるが、夫の受傷により精神上の衝撃を受け、加えて、前記後遺症を残した夫と二児を抱え将来の生活には多大の不安と脅威を感じている。

よつて、その精神上の苦痛を慰藉するには金一、〇〇〇、〇〇〇円が相当である。

(五) 原告桃井富守・同桃井智将の分

慰藉料 各金三〇〇、〇〇〇円

右原告両名は、原告次雄の子でそれぞれ六歳と五歳の男児であるが、母洋子が父次雄の看護に行つた間、親戚に預けられ、父母の保護を受けることができず、加えて、前記後遺症を残した父を持つことの苦悩は多大である。

よつて、これを慰藉するには、それぞれ金三〇〇、〇〇〇円が相当である。

六、自動車損害賠償責任保険の受領関係

原告岡田清は、昭和四二年七月一四日、金一二八、三一三円、同月二一日金一八九、四四八円(「雲南共存病院」直接支払分)を、原告桃井次雄は、同月一四日、金一、〇一〇、〇五二円、同月二一日、金九八九、九四八円(「雲南共存病院」直接支払分)を、それぞれ自動車損害賠償責任保険より受領した。

七、以上により、被告らに対し、原告岡田清は、前記損害金から右保険受領金を控除した金二、二〇五、三五八円原告岡田ヨシ子は、金三〇〇、〇〇〇円、同桃井次雄は前記損害金から、右保険受領金を控除した金八三九七、八七五円、同桃井洋子は、金一、〇〇〇、〇〇〇円、同桃井富守、桃井智将は、各金三〇〇、〇〇〇円および右各金員に対する本件事故発生の日の翌日である昭和四一年九月一八日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求めるものである。

(被告らの答弁)

一、請求原因第一項の事実は認める。

二、同第二項の事実のうち、(一)の事実は不知、(二)の事実は争う。

三、同第三項の事実のうち、被告車両の登録名義が、被告成和運輸にあることは認めるが、その余の事実は争う。

四、同第四項の事実は争う。

五、同第五項の事実のうち、

(一) 原告岡田清の損害についての事実は、すべて争う。

(二) 原告岡田ヨシ子の損害について、

右原告が、原告清の母である点は不知、なお、原告清は生存しており、原告ヨシ子には、慰藉料請求権は発生しない。仮りに、慰藉料請求権が認められるとするも金額は争う。

(三) 原告桃井次雄の損害についての事実はすべて争う。

(四) 原告桃井洋子、同桃井富守、同桃井智将らの各損害について、

右原告らの原告次雄との親族関係は不知、

なお原告次雄は生存しており、右原告らには慰藉料請求権は発生しない。仮りに、慰藉料請求権が認められるとするもその金額についてはいずれも争う。

六、同第六項の事実は認める。

(責任原因についての被告成和運輸の主張)

被告成和運輸は、訴外中村義郎が被告島根いすずから被告車両を購入するに際し、昭和三九年七月一日同訴外人に対し、被告車両について登録名義を貸与したが、同訴外人が、右の売買代金の支払いを怠つたため、昭和四一年八月頃売買契約は解除され、同時に被告車両は、被告島根いすずに引揚げられた。

その時、被告成和運輸の登録名義は抹消されなかつたが、右解除とともに、前記中村義郎は、被告車両の所有権を失い、従つて被告成和運輸の名義貸しも消滅した。

よつて、本件事故当時、被告車両につき、被告成和運輸の名義こそ残つていたが、名義貸しの実質はなく、右被告は、運行支配および運行利益を有していない。

また、右被告と訴外大屋克美との間には、何ら使用関係はない。

従つて、右被告は、本件事故による損害につき、自賠法第三条および民法第七一五条による賠償責任を負わない。

(責任原因についての被告島根いすずの主張)

訴外島根陸送は、自動車の陸上輸送を業とする会社であり被告島根いすずほか数社から注文を受けて、自動車の陸送を請負い、自ら雇傭している運転手に命じてその任に当らせ、その対価を得ることにより事業利益をあげているものである。

本件事故は、被告島根いすずの依頼により被告車両を松江市から岩国市へ陸送するため、右訴外会社の従業員大屋克美が運転中、発生したものである。右被告は、本件陸送関係については、運転者の選任・監督など一切干渉せず、右訴外会社に一任していたものであり、運転者大屋克美に対する指揮監督権を有せず、被告車両の本件運行につき、直接の支配力を及ぼし得ず、また運行自体によつて利益を得ていたものではない。

従つて右被告は、自賠法第三条にいう運行供用者に当らない。また、右被告と訴外大屋克美の間には、何ら使用関係はない。よつて、右被告は、本件事故による損害につき、自賠法第三条および民法第七一五条による賠償責任を負わない。

(過失相殺の主張)

仮に被告らに賠償責任があるとしても、本件事故につき、原告側にも過失が存するので、損害額の算定に当つては、この点を斟酌すべきである。

本件事故現場は、原告側からみれば、相当右にカーブしており、しかも、進路右側には、訴外日本通運株式会社の貨物自動車が駐車していたため、見通しが一層悪くなつており、且つ、交通量の比較的少ない場所であるから、対向車両が、右駐車中の車両を避けるため、センターラインを越えて進行してくる危険が十分予想されるのであるから、原告車両の運転者である原告桃井次雄としては、警笛を吹鳴するとともに、減速徐行する注意義務がある。右原告は、これを怠り、警笛を吹鳴せず、且つ相当のスピードで進行したため、本件事故を惹起せしめたものである。

(過失相殺の主張に対する原告らの答弁)

過失相殺の主張は争う。

第三、証拠〔略〕

理由

一、請求原因第一項の事実(事故の発生と原告岡田清、同桃井次雄の負傷)は、当事者間に争いがない。

二、被告成和運輸の自賠法第三条の運行供用者責任および民法第七一五条の使用者責任についての判断

(一)  被告車両の登録名義が、被告成和運輸にあることは、当事者間に争いがなく、〔証拠略〕を総合すると、被告車両の側板に「成和運輸」の表示がなされている事実が認められるが、右表示および前記登録名義が被告成和運輸とされているのは、昭和三九年六月八日同車両を被告島根いすずより訴外中村義郎が購入した際、被告成和運輸が同訴外人に登録名義を貸与したことによること、その後、同訴外人が右売買の代金を支払わなかつたことにより、昭和四一年八月頃右売買契約は解除され、被告車両は、被告島根いすずが引揚げたが、登録名義および側板の表示は、そのままにしていたこと、その後、改めて被告島根いすずと、被告成和運輸との間で被告車両について、売買の話しが生じたが、この契約は、本件事故当時いまだ成立しておらず、被告島根いすずの岩国営業所に陸送後、現品をみたうえで、契約をなす意思であつたことが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

以上の事実によれば、被告成和運輸は、被告車両につき登録名義を有し、側板に自己の名義を表示してあるも、その実質的権利は有しておらず、また本件運行につき運行支配および運行利益を有していたとは認められない。

よつて、被告成和運輸は、自賠法第三条による責任を負うべきではない。

(二)  被告車両の運転者大屋克美が、訴外島根陸送の従業員であることは当事者間に争いがなく、本件全証拠によるも、本件運行につき、被告成和運輸と右大屋克美との間に被用関係は認められない。従つて、その余の要件を判断するまでもなく、右被告において、民法第七一五条による損害賠償の責任を負うべきいわれはない。

(三)  よつて、原告らの被告成和運輸に対する請求は、その余の判断をするまでもなく、失当であるから、棄却を免れない。

三(一)  (被告島根いすずの運行供用者責任および民法第七一五条による責任についての判断)

証人桑原満雄、同古志豊、同法華定雄の各証言を総合して検討するに次の事実が認められる。

1  本件事故当時、被告車両の所有権は、前記被告成和運輸の責任についての判断で認定した事実関係から、被告島根いすずに帰属していた。

2  本件事故は、被告島根いすずが同車両を被告成和運輸に販売する目的で、同被告に現品を示すため、松江市の本社から岩国営業所に回送することを訴外島根陸送に委託し、同訴外会社の従業員大屋克美が運転して陸送する途中に起つたものである。

3  訴外島根陸送は自動車の陸送を業とする会社であり本件事故当時、運転者三名を擁して陸送事業を営んでいたが、その陸送事業のうち約三割を被告島根いすずからの委託に頼つていた。

4  被告島根いすずは、自動車の販売を業とする会社であるが、販売に際し自動車を陸送する場合には自社の従業員に命じて行なわせる方法と、本件のように陸送専門の業者に委託する方法をとつていた。そして自社にも陸送担当の従業員を一名ないし二名擁してその任に当らせていたが、同被告の陸送関係のうち、ほぼ六割を訴外島根陸送に委託していた。

5  同被告が訴外島根陸送に委託する場合、ガソリン代等の費用は同被告が負担し、運送費は前払いの契約であつた。

以上認定した事実を覆えすに足りる証拠はない。

右事実から判断するに、被告島根いすずと訴外島根陸送の委託関係はその実質において同被告の業務の一部を同訴外人に担当させ、運転者を一時的に雇い入れる関係に立つものと考えられる。

従つて同被告は、被告車両の本件運行につきなお運行供用者責任を負い、同時に、前記事実に照らし、同被告は訴外大屋克美との間に一時的使用関係を有すると認められ、且つ被告車両の本件運行は同被告の業務の執行としてなされたものと言える。

(二)  (訴外大屋克美の過失についての判断)

〔証拠略〕によれば、右訴外人は事故当時大型免許こそ有していたが、二一歳に満たない者であり、被告車両のように六・五トン以上の大型自動車の運転は道路交通法第八五条第五項同法施行令第三二条の二により禁止されている者であつたこと、本件事故現場は、右訴外人の進路前方が左にカーブしており見通しの悪い場所であつたこと、当日は雨天のためスリツプしやすい道路状況であつたこと、右訴外人の進路前方左側に貨物自動車が駐車していたのでこれを避けるため、センターラインを越えて道路右側を進行したこと、右進行の際、時速四五キロメートルの速度で進行したこと、そして対向してきた原告車両と道路右側で正面衝突したことが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

右の認定事実から判断するに、訴外大屋克美に安全運転義務違反および徐行義務違反の過失があることは明らかである。

以上により被告島根いすずは民法第七一五条により使用者責任を負うものである。

四、原告岡田清の損害

(一)  物的損害

1  車両費

原告車両が本件事故により焼燬した事実は当事者間に争いがなく、〔証拠略〕によれば原告岡田清は、原告車両を昭和四一年二月訴外中国いすずモーター株式会社より購入し、その代金は頭金として金一〇〇、〇〇〇円、残金は、金二八、六〇〇円ずつの均等分割払いであり、その終期は昭和四二年九月三〇日であつたからその代金は金六七二、〇〇〇円であつたと認められる。そして前記証拠によると原告岡田清は事故当時まで約七カ月間右車両を使用していたことが認められるから、その償却部分を控除すると、原告の主張する事故当時の評価額金五六四、一八〇円は相当であると思料する。

一方、前記証拠によれば、原告車両をスクラツプとして訴外安達金太郎に金一二、〇〇〇円で売却した事実が認められるので、これを控除すると、原告岡田清の受けた車両に関する損害は金五五二、一八〇円となる。

2  衣類等

次に事故当時原告車両に搭載していた物品および右原告の着用していた衣類等についての損害であるが、原告岡田清の尋問の結果によれば、請求原因記載の各物品を搭載していた事実および同記載の衣類を着用していた事実ならびに各評価額はいずれも購入時の価格であることが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。そこで右衣類等の事故当時の評価額の認定が問題になり、この点に関する証拠はないが、各評価額の五割をもつて事故当時の評価額とみるのが相当であるから、その金額は合計金一八、三〇〇円となる。右の限度で原告岡田清の損害と認められる。

(二)  人的損害

1  治療費

〔証拠略〕を総合すれば、右清は、本件事故による傷害治療のため昭和四一年九月一七日から同年一一月二四日まで計六八日間雲南共存病院に入院し、治療費として金一八〇、八三九円を要した事実が認められる。一方、昭和四二年七月二一日自動車損害賠償責任保険から金一八九、四四八円が前記雲南共存病院に治療費として直接支払われた事実は当事者間に争いがなく。そうだとすれば、右原告主張の治療費はすべて右の保険金により償われたものと認めるのが相当である。

2  附添費 金二二、〇〇〇円

原告岡田ヨシ子、同岡田清の各本人尋問の結果によれば、右清が入院治療中母親ヨシ子が、昭和四一年九月一八日から同年一〇月一〇日までの二三日間看病のため附添いをした事実が認められる。原告はその附添費として、一日金一、一〇〇円の割合で二〇日間分の合計金二二、〇〇〇円を請求している。前期附添期間に照らし、また日額の点も相当であるところから、原告の請求額を相当して認容する。

3  交通費および宿泊費 金三二、〇〇〇円

原告岡田ヨシ子・同岡田清の各本人尋問の結果によれば、原告清の入院中、兄弟が広島県山県郡戸河内から、島根県大原郡大東町の前記雲南共存病院に見舞うに際し、タクシー代として金二〇、〇〇〇円相当の交通費を費やし、その際旅館に宿泊して金一二、〇〇〇円相当の宿泊代を支出したことが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。そこで原告の請求する交通費金二〇、〇〇〇円、宿泊費金一二、〇〇〇円はいずれも正当としてこれを認容する。

4  逸失利益

〔証拠略〕によれば、本件事故当時、右原告は、原告車両を利用して、浅津選果場と山栄青果商店間の二〇世紀梨の取引について梨を運送し、運送費を得ていたこと、および山陰地方で発生する帆立貝を「カキ」の養殖に利用する種板に加工し、これを広島のカキ業者に販売する仕事をしていたことが認められる。

そこでまず、梨の運送に関しての逸失利益について判断するに、前記各証拠(但し、証人陰山の証言を除く)によれば、右原告は、一五キログラム入りのダンボール一箱につき一〇〇円の利益を得る計算で、一回の運送につき、二四〇箱運び、結局一回の運送で金二四、〇〇〇円の粗収入を得、これからガソリン代等の経費を控除すると金一七、〇〇〇円の純益を得ていたこと、および本件事故により少なくとも一〇回の運送ができなくなつた事実が認められる。右事実からすると、右原告は金一七〇、〇〇〇円相当の得べかりし利益を喪失したことが認められる。

次に帆立貝の販売に関する逸失利益について判断するに、前記証拠(但し証人野々川の証言を除く)によれば、原告岡田清は、訴外陰山との間で帆立貝の売買をしており、一束(帆立貝の真中に穴をあけて、一、五〇〇枚位を針金で通したもの)当り金一〇〇円の収入を得ていたこと、および本件事故当時二、〇〇〇束を、一〇月末までに引渡す契約を結んでいたが、事故による傷害のためこれを履行できなかつたことが認められる。従つて、右原告は金二〇〇、〇〇〇円の得べかりし利益を喪失したことになる。

右原告は、陰山商店以外に地御前川崎商店・地御前材木商店と各四〇〇束、能美野村海産と八〇〇束の契約を結んで一束につき、一九〇円の純益を得ることになつていたと主張し、これに副う右原告本人の尋問の結果があるが、右契約はいずれも八月頃の契約で一〇月いつぱいに納入する約束であつたとの供述に照らし、前記梨の運送と日時が重なること、また原告主張のとおりとすれば、本件事故後約一ケ月間に合計金七〇〇、〇〇〇円相当の収益を得ることになる点から、原告の仕事が季節的なものである点を考慮しても、なお原告清主張の収益は過大なものになると思われるので、右の部分に関する原告清の尋問の結果はにわかに措信し難い。

従つて右原告の逸失利益は、梨の運送に関して金一七〇、〇〇〇円、帆立貝に関して金二〇〇、〇〇〇円の限度で正当としてこれを認容する。

一方、右原告が、自動車損害賠償責任保険より、昭和四二年七月一四日金一二八、三一三円受領したことは当事者間に争いがなく、その内訳につき右原告本人尋問の結果によれば、休業補償として、一日金一、一〇〇円の割合で六八日分計七四、八〇〇円受領した事実が認められるのでこれを前記逸失利益より控除すると、金二九五、二〇〇円が右原告の請求しうる金額となる。

5  慰藉料

前記認定した原告岡田清の受傷の部位・程度およびその治療経過ならびに右原告の本人尋問の結果により認められるところの右原告は昭和四二年二月頃まで仕事につきえず、その頃になつて渡辺運送に自動車運転者として勤務したこと、その給料は運転者相応のものを受けていること、ならびに原告岡田ヨシ子の本人尋問の結果により認められるところの原告清は、昭和四三年七月結婚している事実等を考慮して、右原告の受けた精神上、肉体上の苦痛を慰藉するには、金三〇〇、〇〇〇円が相当であると思料する。

一方、右原告が昭和四二年七月一四日に受領した自動車損害賠償責任保険金一二八、三一三円のうち、前記休業補償費金七四、八〇〇円を控除した額金五三、五一三円は慰藉料としての給付と認められるので、この額を前記金三〇〇、〇〇〇円から控除した残額金二四六、四八七円の限度で、右原告の慰藉料請求は理由があり、その余の請求は失当である。

五、原告桃井次雄の損害

(一)  〔証拠略〕を総合すれば、右原告は、本件事故により、両下腿骨開放性骨折、左足挫滅頭部外傷、外傷性顎椎症等の傷害を受け、その治療のため本件事故直後雲南共存病院に入院し、同病院において、左下肢を膝関接の下部より切断する手術を受ける等の治療を受け、翌年三月頃退院したこと、同年七月三日より同年八月二〇日まで種村病院において、右下肢治療のため挿入したプレート摘出の治療を受けたこと、なお後遺症として左下肢を足関節以上で失ない、左眼を失明したこと、が認められる。

(二)  治療費 金四一、二二一円

前記証拠によると、原告桃井次雄は、前記雲南共存病院に入院中昭和四一年一〇月三一日までに治療費金六六〇、六五八円を要したことが認められるほか、その後もなお若干の治療費を支出したと推認されるが、その額は証拠上明確に認定し難く、他方強制保険より昭和四二年七月二一日雲南共存病院に金九八九、九四八円が直接支払われたことは当事者間に争いがないので、雲南共存病院での治療費はすべて強制保険の支払いで償われたものと認めるのが相当である。種村外科病院での治療費として、原告桃井次雄は金六五、二〇〇円を請求するが、〔証拠略〕によると、種村外科病院に支払つた治療費は金四一、二二一円であると認められるから、右金四一、二二一円の限度で治療費を認めるのが相当である。

(三)  附添費 金九九、〇〇〇円

原告桃井次雄は、前記雲南共存病院に入院中、妻洋子が看病のため附添つた費用として金九九、〇〇〇円を請求しているが、原告洋子の尋問の結果によれば、右洋子は、本件事故当日から翌年三月まで右次雄の看病のため附添つたこと、当時右洋子はゴルフ場のキヤデイーとして働き一カ月金二〇、〇〇〇円相当の給料を得ていたことが認められる。右の事実によれば、原告の請求は理由があるので、これを認容する。

(四)  諸雑費 金三六、〇〇〇円

右原告は、交通費として金一〇、〇〇〇円事故当時の着衣等として金二九、八〇〇円の損害を請求しているが、右の額を定かにするに足りる証拠がなく、確定しえないが、本件事故による諸雑費として、前記入院治療期間約一八〇日の間一日金二〇〇円相当の金額は要するものと思われるので金三六、〇〇〇円を損害として認める。

(五)  労働能力喪失による損害

前記認定のごとく原告桃井次雄は本件事故による傷害を治療するもなお後遺症を残しており、自賠法施行令別表によれば、左下肢切断は後遺傷害第五級に、左眼失明は、同表の第八級にそれぞれ該当するところ、同施行令第二条二の八により重い第五級の二級上位、すなわち第三級の後遺傷害に該当する。また原告桃井次雄の本人尋問の結果を総合して検討するに、右原告は、本件事故当時三一歳で、株式会社波平建設に、自動車運転者として勤務し、月収金三五、〇〇〇円(うち手当金二、〇〇〇円)相当の収入を得ていたが、本件事故により昭和四四年四月頃まで、全く仕事につけず、同月頃に至り漸く前記波平建設に倉庫番として勤務し、月収金一五、〇〇〇円相当の収入を得るようになつたことが認められる。右の事実によれば右原告の労働力喪失率は、全稼働期間を通じて六〇%と認めるのが相当である。

一方、右原告は本件事故当時三一歳であつたから、少くとも六三歳に達するまでの三二年間は前記波平建設等に勤務して一カ月金三五、〇〇〇円程度の収入を得ることができたであろうことを認めることができる。そしてこの金額を事故時に一時に支払を受けるものとして年毎にホフマン方式にしたがつて民法所定年五分の割合による中間利息を控除しこれを合算すると、その得べかりし利益の喪失額は次の計算により金四、五五一、〇五二円

(35,000×12×0.6×18,806)

となる。

右原告が、昭和四四年七月一四日自動車損害賠償責任保険より金一、〇一〇、〇五二円を受領していることは当事者間に争いがなく、これは前記後遺症に対する給付であつて右の逸失利益から控除すべき性質のものであると考えられるから、結局、右原告の得べかりし利益の喪失として被告に請求しうる額は金三、五四一、〇〇〇円となる。

(六)  慰藉料

右原告の前記認定した傷害の部位、程度、その治療状況および後遺症を考慮し、且つ、幼ない二児を抱えている原告の家族構成を併せ考えると、同原告の本件事故により受けた精神上、肉体上の苦痛はその将来になお続き、大きいと言わざるをえない。従つてこれを慰藉するには金一、三〇〇、〇〇〇円が相当であると思料する。

六、原告岡田ヨシ子、同桃井洋子、同桃井富守、同桃井智将らの各請求についての判断

原告岡田ヨシ子が原告清の母、同桃井洋子が同次雄の妻、同富守、同智将が同次雄の子であることは、本件証拠上明白である。右原告らは原告清、同次雄の本件傷害による固有の慰藉料を求めているものであるが、民法第七一一条に照らし、近親者に固有の慰藉料請求が認められるのは、原則として死亡事故の場合であり、傷害にとどまる場合には、死に勝るとも劣らないほどの重大な傷害の生じた場合にのみ認められると解するのが相当である。

本件の場合、原告岡田清、同桃井次雄の受けた各傷害の部位程度および治療の経過については、前記認定のとおりであるが右の認定事実からすると、いずれもいまだ死に比肩すべき程度の傷害とは認め難く、近親者固有の慰藉料請求は認められない。

従つて、各原告らの慰藉料請求はいずれも理由がなく棄却を免れない。

七、過失相殺の主張に対する判断

本件事故における訴外大屋克美の過失については前記認定のとおりであるが、被告ら訴訟代理人は、原告車両の運転者原告桃井次雄にも、警音器吹鳴義務違反および徐行義務違反による過失があり、損害額算定について斟酌すべき旨を主張するので判断する。

〔証拠略〕によれば、原告桃井次雄は、事故現場附近にさしかかつた際、前方に見通しのきかないカーブを認めたので一旦時速四五ないし五〇キロメートルの速度を時速三〇キロメートルに減速したが、前方右側に駐車している自動車を認め徐々に速度を落して進行していたところ右カーブ前方約二〇メートルの地点に被告車両を発見したので直ちに制動措置をとつたことが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。右事実および、前記訴外大屋克美の運転上の過失につき説示した事実をあわせ考慮すると、原告次雄について徐行義務違反の過失があるものと認めるのは相当でない。また、右原告が警音器を吹鳴した事実は本件全証拠によつても認められないが、この一事をもつて右原告に過失があつたとは言い難く、結局本件事故は訴外大屋克美の一方的過失によつて惹起されたものと認めるのが相当である。従つて、被告らの過失相殺の主張は採用できない。

八、以上の理由により、原告岡田清、同桃井次雄の被告島根いすずに対する各請求は、原告岡田清につき金一、一六六、一六七円、同桃井次雄につき金五、〇一七、二二一円および右各金員に対する本件事故発生の日の翌日である昭和四一年九月一八日から支払いずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから認容するが、右原告らの同被告に対するその余の請求、および他の原告らの同被告に対する請求ならびに原告らの被告成和運輸に対する各請求はいずれも理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八九条、九二条、九三条第一項を、仮執行および免脱の宣言について、同法第一九六条第一、三項を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 熊佐義里 塩崎勤 井上郁夫)

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